目次
●遺言の種類
遺言は、法律の規定に従った方式で作成しなければ効力が生じません。 遺言の作成方式は、「普通方式」と「特別方式」に大別されます。
通常利用される作成方式は「普通方式」です。「普通方式」の遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
一方、「特別方式」は、「普通方式」による遺言作成ができない特別な状況下(死期が迫っている、船舶等隔絶された場所にいる 等)で適用される作成方式です。
「遺言書」といえば、一般的には「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」を指します。

○ 自筆証書遺言
「自筆証書遺言」は、遺言する人が自分で書いて作成する遺言書です。遺言全文、日付、氏名を手書きして、押印します。保管場所は、遺言者の自由です。
メリットは、自分で書き保管しておくだけなので、作成が簡単で費用もかからないこと。デメリットは、間違った記載や不備により無効な遺言書となってしまう危険性があること、遺言者亡き後に遺言書を誰にも見つけてもらえなければ意味がないこと、破棄・隠匿・改ざん等をされてしまう恐れがあること 等です。また、自筆証書遺言書を使用して相続手続きを行うには、家庭裁判所での検認が必要になります。
なお、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿等の悪質な行為をした者は、相続人の権利を失います(民法891条5号)。
※検認は、あくまで、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きであり、遺言が有効か無効かの判断がなされるわけではありません。
※検認手続きには、費用がかかります。また、申し立てから検認が終わるまで、1~2カ月ほどの時間を要します。
*「遺言書の検認」の詳細は ↓
「遺言書の検認」(裁判所ホームページ)(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html)
添付する財産目録については自筆でなく、パソコン等により作成したり、通帳コピーや不動産登記事項証明書等を使用することも可能です。
※添付する財産目録の各用紙に、署名と押印をする必要があります。
民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて外形的な確認が行われたうえで、法務局(遺言書保管所)に、遺言書原本と画像データが保管されます。
相続開始後、相続人等は、遺言書の閲覧や遺言書の内容の証明書(遺言書情報証明書)を請求することができます。従前、遺言書の原本を使用して行っていた手続きについて、遺言書原本の代わりに遺言書情報証明書を添付して使うことが想定されています。
※家庭裁判所での検認の手続きは不要です。
※相続人等が、遺言書の閲覧をしたり遺言書情報証明書の交付を受けたりすると、その人以外の相続人等全員に対して法務局から、遺言書を保管している旨が通知されます。
※保管制度は、遺言書の有効性を保証するものではありません(遺言書の内容についての審査は行われません)。
※保管制度の各種手続き(保管の申請、遺言書の閲覧の請求、遺言書情報証明書の交付請求等)には、費用がかかります。
*「自筆証書遺言書保管制度」の詳細は ↓
「自筆証書遺言書保管制度」(法務省ホームページ)(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html)
○ 公正証書遺言
遺言内容を公証役場の公証人に伝え、2人以上の証人立ち合いのもと、公証人が関与して作成する遺言書です。原本は公証役場で保管されます(遺言者には写し(正本・謄本)が渡されます)。
メリットは、要件不備となる危険性が少なく法的に最も確実なこと、偽造や変造の恐れがないこと、家庭裁判所での検認が不要でありすぐに遺言内容の執行に取り掛かれること 等です。デメリットとしては、作成費用がかかること、作成の際に様々な書類の提出が必要なため手間を要すること、また、証人に遺言書の内容を知られてしまうこと 等が挙げられます。
●遺言書でできること
遺言によってできる行為は、法律で定められています(法定遺言事項)。それ以外のことは、たとえ遺言書に書かれていたとしても、法的な実行力を持ちません。
(法的効力を持たないことでも、遺言書に書き加えることは可能です。⇒ 参照:「付言事項」章段 )

遺言書に書くことで法的効力を持つ事項には、以下のようなものがあります。
共同相続人の相続分の指定、または第三者への指定の委託(民法902条1項) | 法定相続分とは異なる相続割合を指定することができます。また、その指定を第三者に委託することも可能です。 |
遺産の分割の方法の指定、または第三者への指定の委託(民法908条1項前段) | どの遺産を誰に相続させるかを指定することができます。また、遺産の分け方の指定を第三者に委託することも可能です。 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨を記した遺言を、特定財産承継遺言(民法1014条2項)といいます。 |
遺産の分割の禁止(民法908条1項後段) | 相続開始から5年以内の期間であれば、遺産の分割を禁止することができます。 |
遺贈(民法964条) | 相続人以外の人に遺産を贈与することができます。 遺産を譲り渡す代わりに一定の義務を負わせる遺贈の方法もあります(負担付遺贈・民法1002条)。 |
特別受益者の持戻し免除(民法903条3項) | 生前贈与したものを相続財産に算入しない意思表示をすることができます。 遺言に免除の記載があっても、遺留分の計算の際は、生前贈与分を加える必要があります。 |
遺産分割の担保責任の指定(民法914条) | 共同相続人間の担保責任(相続した財産に瑕疵がある場合に各共同相続人が負う責任)の範囲を指定することができます。 |
推定相続人の廃除(民法893条)、推定相続人の廃除の取消し(民法894条2項) | 推定相続人が自分に対して虐待や重大な侮辱行為をしたり、著しい非行があった場合に、その人を相続人から廃除して相続権を奪うことができます。 また、生前に行っていた相続廃除を、遺言書で取消すこともできます。 |
認知(民法781条2項) | 結婚していない男女間で生まれた子(非嫡出子)は、父親に認知されなければ、法律上、父親との親子関係が生じません。 生前に認知しなかった子でも、死後に認知することを遺言書に記しておけば、非嫡出子も相続人になります。 |
未成年後見人の指定(民法839条)、未成年後見監督人の指定(民法848条) | 自分が亡くなると未成年に対して親権を行うものがいなくなるという場合には、遺言で、未成年後見人を指定することができます。 また、未成年後見人を指定できる人は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができます。 |
遺言執行者の指定、または第三者への指定の委託(民法1006条1項) | 一人または数人の遺言執行者(遺言の内容を実現するために手続きを行う権限を持つ人)を指定することができます。また、その指定を第三者に委託することも可能です。 遺言執行者がない、またはなくなった(遺言書による指定や指定の委託がない、遺言執行者の就職拒絶・欠格・解任・辞任)場合には、利害関係人の申立てによって、家庭裁判所が遺言執行者を選任します。 |
祭祀財産の承継人の指定(民法897条1項) | 祭祀財産(家系図、位牌、仏壇、仏具、墓 等)の所有権を受け継いでいく人の指定は、遺言によっても、することができます。 |
一般財団法人の設立(一般法人法152条2項) | 一般財団法人を設立する意思表示は、遺言によっても、することができます。遺言で、定款の記載事項等を定めて、その意思表示を行います。 |
信託の設定(信託法3条2号) | 財産の管理・処分や運用等のための信託の設定は、遺言によっても、することができます。 |
保険金受取人の変更(保険法73条1項) | 保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができます。 |
●付言事項
遺言書には、法的効力を持たないことも付け加えて書き残すことができます(付言事項)。
遺言で指定した財産配分の理由、自分亡き後の希望や期待、家族へのメッセージ等、自由に書くことができます。遺言書の本文のような堅苦しい表現も不要です。

付言事項には、法的な実行力はありません。必ず書かなければいけないというものでもありません。しかし、遺言者の思いを相続人に伝える手段として用いることができます。
語り掛けるように記された付言事項が、相続争い等のトラブルを回避するための切り札となることもあります。
●遺言書の有無と相続手続き
遺言は、本人の最終の意思として尊重され、法的な効力を備える制度です。そのため、遺言書の有無によって、その後の相続手続きの流れが大きく変わることになります。
相続分は、遺言書があればその内容が優先され、遺言書がなければ法定相続人全員による遺産分割協議で決めることになります。

- 法的にも内容的にも問題の無い遺言書が遺されていた場合
遺言書の内容が最優先されます。たとえ特定の相続人に偏って多くの財産を相続させる内容や、法定相続人以外の第三者に遺産を贈与(遺贈)する内容であっても、その遺言内容が優先されることになります。
※遺言書の内容に関わらず、遺留分(兄弟姉妹(甥・姪)以外の法定相続人に最低限保証される遺産取得分)の権利は、必ず保証されます。
※遺言書の内容が、相続人全員の望まないものである場合には、相続人全員の合意で遺産分割協議を行い、遺言書の内容を覆すことができます。なお、相続人以外の第三者への遺贈や、遺言執行者が記されているような場合には、その受遺者や遺言執行者の同意も必要になります。
- 遺言書が無い場合
法定相続人全員で協議(遺産分割協議)し、全員の合意で、相続財産の分け方を決めます。必ずしも法定の相続分(割合)で分ける必要はなく、法定相続人全員の合意した内容で分割されることになります。
遺産分割協議は、法定相続人全員による話し合いとなるため、それぞれの事情や感情面等で行き違いが生じ、揉め事になってしまう可能性があることは否めません。また、一度も会ったことのない相続人や、協力してくれない相続人の存在等により、協議を行うこと自体が難しくなってしまう場合もあります。
- 遺産の分割について法定相続人の間で話し合いが整わない場合
家庭裁判所の「遺産分割の調停」を利用することができます。調停手続を利用する場合は、相続人のうちの一人若しくは何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立てをすることになります。調停手続では、調停委員会が、各当事者の意見の聴取等を行い事情をよく把握したうえで解決に向けた助言等をし、合意を目指して話し合いが進められます。
話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判官が審判をすることになります。審判で示される結論は、法定の相続分(割合)に基づいた遺産分割となることが一般的です。
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